2013/10/18

名もなき人たちのテーブル

オンダーチェの「名もなき人たちのテーブル」を読んだ。
電車の中や、眠る前のひとときに。
最初は、美しいけれどよくある「海と少年」の話のようだったのに、ある局面から物語は物語を超えて「まるで私のこと」を語り始めた。
様々な記憶の断片が加えられるうちに、誰かの肉体によってはじめて許される心の解放の一瞬や、それがすぐさま過ぎ去ることや、心を奪うものと奪われるものの関係、権威があることで浮かび上がる名もなき人たちの多様さ、諦めるしかない別れ、どのような金や権威や色香を使っても手に入ることのない芸術との一体の喜び......
これらの断片の間から溢れて襲ってくるのは、支配と自由の繰り言のようだった。

読了したのは夜明けで、眠らなければならないのに眠ることも叶わずに、そのまま仕事にむかった。
ふと、道を変えて歩いてみたら、窓の向こうに人が見えた。
硝子の向こうに見えた光景もまた歩調のままにすぎていって、
現実の出来事とはいったいどのような感触がするのか、
もはやわからなくなっているのだと、そんな遠さを感じる朝だった。